耕作放棄地の再生目指せ 岡山県内の先進地で徐々に成果 – 山陽新聞



 農家の高齢化や後継者不足に伴って全国で増加している耕作放棄地。岡山県内でも面積は増え続け、過去最高を更新し続けている。荒れ地化した耕作放棄地は景観を悪くするだけでなく、病害虫の発生源やイノシシなどのすみかとなって悪影響を及ぼすため、対応が急がれる。一方で、都市部の住民に畑づくりに参加してもらったり、新規就農者と農地再生をセットで行ったりする地域ぐるみの取り組みも始まり、歯止めをかける動きも出てきた。県の「耕作放棄地解消強化月間」(11、12月)に合わせ、先進的に取り組む地域の現状と課題を追った。

 「畑の維持管理の費用を考えれば、タダで貸しても十分元が取れる」-。岡山市北区下牧地区の耕作放棄地を活用して11月に行った「タマネギ苗オーナー制度」。住民グループ「下牧農援隊」の西崎国雄代表(76)はその狙いを語る。100本の苗を千円で購入した“オーナー”に畑を用意し、植え付けや草取り、施肥といった農作業をしてもらい、育ったタマネギを持ち帰ってもらう取り組みだ。2年前にスタートし、今年は2日間で30組が参加した。毎回定員オーバーになる人気ぶりを見せている。

 同地区は10年ほど前から耕作放棄地が目立つようになり、10ヘクタールを超える。草刈りなど畑を維持するだけで10アール当たり年間40万円はかかるといい、放置されるケースが増えている。西崎代表は「オーナー制度をきっかけに家庭菜園をしたいという13人が、別の畑を借りて野菜作りを楽しんでいる。高齢化が進み、自分たちだけで解決できない。都市部の住民の力も借りて地域を守りたい」と話す。

 県内の耕作放棄地は過去最大の1万1376ヘクタール(2015年農林業センサス)に上る。その半数が、土地を相続などしたが農業をしていない「土地持ち非農家」の所有で、この20年間で2.2倍に膨れた。農地の維持管理の意識が低い上、多額のコストが掛かり、関係者は頭を痛める。

地域の協力必要

 耕作放棄地対策として一般的に取り入れられているのが牛の放牧だ。簡易な牛舎や電気柵の設置だけという参入コストの低さに加え、飼料自給率向上や農地維持にもつながることから国も補助金制度を設けて普及を後押ししている。県内では新見市や高梁市などで取り組まれている。

 高梁市備中町西山地区の地元住民と新規就農者でつくる農事組合法人「西山維進会」は、2014年から放牧に取り組んでいる。同地区は200人ほどが住む山あいの集落で、25ヘクタールの田んぼが耕作放棄されている。吉家仁代表理事(69)は「この状態を放置していたら木や竹が生えて、あっという間に住めない山になる。しかし田んぼは、もうからず、やる人もいない。そこで人間の代わりに牛にしてもらうことにした」と経緯を振り返る。

 初年は2頭を県からレンタルしてスタートした。1日1回程度見回りをする程度で可能と判断し、子牛が高値で売買される黒毛和牛2頭を購入。放牧面積も徐々に増やし、現在は4カ所約10ヘクタールの田んぼに8頭を飼育している。今後は耕作できる可能性がある田んぼの集約も進め、18年には8頭増やし16頭体制にする考え。ただ、所有者の理解を得られないケースもあり、「地区全体で活動を理解し、協力してもらえるかが今後のカギ」(吉家代表理事)だそうだ。

新規就農者が再生

 新規就農者の受け入れにより耕作放棄地の再生に成功したのは、ブドウの産地・岡山県久米南町山手地区だ。再生にとどまらず農地の大規模化を実現したケースとして注目を集める。

 同地区は、県営農地開発事業(1974~87年)で山を切り開き、20ヘクタールのブドウ畑と30ヘクタールのタバコ・野菜畑が造成されたが、高齢化に伴い廃園が相次いだ。この状況を懸念したJAつやま久米南ぶどう部会は2008年に実態調査。地権者らに農地貸し出しへの理解を求めた。まずはブドウ棚が残る耕作放棄地の草刈りなどをしてすぐ使えるようにし、就農希望者に仲介した。

 13年からはタバコ畑の耕作放棄地にも手を伸ばし、隣接する京尾地区でも再生作業を進める。おかげで1戸あたりの栽培面積は84アールと県内最大規模に成長。さらに、ぶどう部会のメンバー30人の半数が若手の就農者になり、一時は60を超えていた平均年齢は53歳まで下がった。

 3年前に新規就農し、いまも再生作業で農地を広げている月本幸常さん(36)は「森のような場所を畑に戻すことは大変な作業だが、もともと整備された場所なので栽培には最適。さらに作業効率が良い、まとまった農地が手に入るのが魅力」と話す。青山仁部会長(69)は「毎年1、2人の就農希望者が来るため、再生に適した場所がなくなっているのが課題。棚田の畑作化も検討しており、チャレンジ精神旺盛な若い人を受け入れたい」と語る。

利用周知を

 耕作放棄地対策として新しい担い手の確保や農地の集約は急務。しかし、農地の貸し借りを仲介する県の農地中間管理機構(農地バンク)によると、貸し出し希望の土地が圧倒的に少ないのが実情だ。農地バンクは高齢農家などの農地をまとめて借り受け、大規模農家にまた貸しする仕組み。経営規模の拡大や作業効率の向上が狙いだ。県農林漁業担い手育成財団が窓口になる。公的機関が仲介する安心感や、条件付きで貸し手に協力金が支払われるといったメリットを強調するが、貸し出し希望面積は借り受け希望の3分の1にとどまる。

 貸し出す土地が足りない要因の一つとして、農地を持つ高齢者に制度が周知されていないことが挙げられる。県は先進事例や再生事業の補助金制度を紹介する研修会を毎年11月に開催。同財団は、リーフレットを作成するなどPRに力を入れている。「所有者が地域のつながりを気にして出し渋っている可能性がある」とみて、農家の個別訪問をするなど働きかけを強めている。

 岡山大大学院環境生命科学研究科の駄田井久准教授(農業経済学)は「耕作放棄地が耕作放棄地を呼ぶという悪循環が起きている」と指摘する。一区画の耕作放棄が起きると、病害虫の発生や農機の搬入が難しくなり、周辺の土地の利用価値が低下。悪影響は次第に地域全体に及ぶため、「負の連鎖」が続くという。「耕作放棄する意思決定は農家個人が行うだけに問題の根が深い。行政が主体となって大規模農業に適しているかなど土地の利用価値を10年、20年という長い期間で見据え、農地として守る場所を線引きするべきだろう」と話している。




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